バリュー投資では、純利益の値が企業の実力と異なっていると、誤った投資判断を下してしまう可能性があります。
純利益が異常だと、バリュー投資の三大原則であるPERの値も異常になってしまうからです。
PERが低かったとしても、純利益が異常だったために、実は割安ではなかった。そして実は割高な水準で買ってしまった。そんなことになりかねません。
そして、純利益の異常は会社四季報の業績欄を見ているだけでは気づくことはできません。財務諸表の、特に損益計算書を分析する必要があります。
損益計算書を読み、純利益の異常に気づける力をつければ、見せかけの業績やPERに騙されない投資判断が下せるようになります。
この記事では、純利益に異常を及ぼす損益計算書の4つの項目をご紹介し、本来の純利益を計算する方法を解説します。
販売費および一般管理費
売上総利益から、その営業にかかった経費を引くと営業利益が算出されます。この経費を販売費および一般管理費と呼びます。
その内訳は、販売部門の人件費や広告宣伝費、本部費用などです。
複数の項目があるわけですが、その中でも注意すべきは減価償却費とのれん償却費です。これらは実際には発生していない費用です。
どういう意味か説明します。資産の中でも、年々その価値が減少していくものがあります。それは工場や設備などの固定資産、買収した企業のブランドです。
貸借対照表ではこれらの価値を減らさなければいけないので、その減った分の価値を損益計算書に反映させる必要があります。この費用が減価償却費やのれん償却費です。
さて、この減価償却費とのれん償却費の、販売費および一般管理費に占める割合が大きくなると営業利益が大きく圧縮されます。すると実態より小さな純利益が出てしまうのです。
この項目によって異常になった純利益は実態より小さくなりますから、結果的にPERが高くなり、せっかくの優良株を割高だと誤判断してしまうことにつながります。
特別利益
当期に限って発生した利益を特別利益と呼びます。
バリュー投資の原則では、業績拡大の持続性を重要視するので、当期だけに発生した利益を企業の実力とは考えません。
したがって、特別利益は我々バリュー投資家にとってはノイズにあたる存在です。
これがそんなに大きくない場合は無視できるのですが、経常利益に対して純利益の値が異常に大きいと、特別利益が影響を及ぼしている可能性があります。
この場合、純利益が大きくなるのでPERが低くなり、割安だと誤判断してしまうことにつながります。最終的に投資してしまうリスクがあるので特に注意が必要です。
このように、特別利益が大きい場合は、経常利益から引いてから改めて法人税率を掛けて、妥当な純利益を計算します。
特別損失
特別利益とは 対称的に、当期に限って発生した損失を特別損失と呼びます。これも先程と同様の理由で、会社の実力とは考えません。
経常利益に対して純利益の値が異常に小さいと、特別損失が影響を及ぼしている可能性があります。
この場合、純利益は小さくなるのでPERが高くなり、割高だと誤判断してしまうことにつながります。
このように、特別損失が大きい場合は、経常利益に足してから改めて法人税率を掛けて、妥当な純利益を計算します。
法人税
税引前当期純利益から法人税を引くと、純利益が算出されます。
通常の法人税率は33%程度。つまり、税引前純利益の60~70%ぐらいの値が純利益になります。
しかし、明らかに純利益がこの範囲からブレていた場合は原因を調べます。
法人税によって純利益がブレる主な原因は次の5つです。
- 海外子会社等の適用税率のブレ
- 持分法による投資損益
- 受取配当など、永久に益金に算入されない項目
- 交際費など、永久に損金に算入されない項目
- 評価性引当金の減少(主に繰越欠損金による税負担の減少)
1.~4.については毎年のことなので会社の実力と考えられます。つまり、純利益の値が異常だったとしてもそれが実力だということで、一株益やPERの数字は妥当だと判断します。
一方、5.は一時的な要因によるブレなので、これは修正して考えなければなりません。前期などが赤字になると損失を繰り越せるので税負担が軽くなっちゃうんですよね。なお、法人税率の具体的な数字は、有価証券報告書に書かれます。決算短信には書かれないので、注意が必要です。
もし法人税率が下げられたことによって純利益が異常に大きくなった場合、PERが低くなるので、割安だと誤判断してしまうことにつながります。最終的に投資してしまうリスクがあるので特に注意が必要です。
本来の純利益を計算する方法
上記までの純利益に異常を及ぼす4つの項目を特定した上で、本来の純利益をざっくりと計算する方法をご紹介します。
本来の純利益は次の式で計算できます。
本来の純利益 ≒(経常利益 + のれん償却費 -特別利益 +特別損失)×(1 - 法人税率)- 少数株主利益
この式のうち、歪みが大きな項目にのみ数字を当てはめて計算します。
各項目は損益計算書に記載されています。ただし、のれん償却費だけはキャッシュフロー計算書に記載されているので注意してください。
これでだいたい正しい純利益を算出することができますが、税金の負担率に影響を与える項目は他にもあるので正確な数字にはなかなかなりません。
本来の純利益を知ることでより正確な投資判断を下そう
純利益の値が異常になるケースはそう多くはありません。なので、毎回損益計算書を見て、本来の純利益を計算してもキリがないです。
そこで、「バリュー投資の三大原則(業績・PER・チャート)は良いんだけれど、経常利益に対して純利益変だとか、キャッシュフローなど財務が不安だ」という場合に損益計算書をチェックしてみましょう。
これで、銘柄をより正確に判断できるので、投資チャンスが広がる一方、実は危険だった株に投資するリスクを回避することができます。