2月5日のダウ工業株30種平均は過去最大となる1175ドル下落を記録。その株安は全世界に波及した。
日本も例外に漏れず、1071円安。2016年6月以来の大幅下落となった。
そんな急落する市場の中、投資家が生き残るためにすべきことは何か。
- 株価急落の主な背景は金利
- 米国株に割高感があった
- 現状の分析
- 株価急落の本質を考える
- 今回の急落は循環相場における中間反落ではないか?
- EPSとPERを根拠に冷静な判断を
- 急落相場での資金管理
- ピンチをチャンスに
株価急落の主な背景は金利
今回の震源はアメリカ。平均賃金の上昇から始まった。
2018年1月の雇用統計で時間当たり平均賃金は前年比+2.9%。2009年6月以来の伸びを記録した。
リーマンショック以降、アメリカの失業率は10%から4%まで下落。意志とスキルさえあれば誰でも就職でき、実質完全雇用を達成したと言われた。
賃上げは物価の上昇につながる。そうなると次に待っているのはインフレだ。
この結果を受け、FRBの利上げペースの加速観測が強まった。このため、米10年国債利回り(米長期金利)が上昇し、2.8%台に達した。
市場の予測では金利は2.75%を超えないというシナリオだっただけに、この数字が与えるインパクトは大きい。
金利上昇が与える影響
長期金利が実体経済に与える影響は大きい。
まず1つ目は住宅だ。住宅に関する消費は、国民消費全体の15%を占める。
金利は住宅ローンに直結するため、金利が上がると住宅の購入が鈍る。これだけでもGDPの15%の成長率が鈍ることが予測される。
2つ目は自社株買いだ。これまで、企業は金融緩和で金利が低下した際に社債を発行してきた。これで調達した資金で自社株買いを行い、一株益(EPS)を押し上げてきた。
金利が上がると自社株買いが手控えられる。その分、EPSの成長率が鈍るため、株価の割高感が強まる。この金利の上昇によって、EPSの成長率は4%下落するといわれている。
米国株に割高感があった
ここ最近の米国株は減税効果でEPSの予想値が急上昇し、株価に過熱感があった。
実際、減税効果でEPSの予想上昇率は11%から17%まで伸びていた。
これを慌てて追いかけるように株価が上昇したため、足元のPERは18倍にまで達していた。
PERの標準値は15倍。この過熱感が今回の下落に拍車をかけた形だろう。
現状の分析
この2日間で一体何が変わったのか、逆に何が変わっていないのか。落ち着いて分析してみることが重要だ。
変わっていないこと
まずはファンダメンタルだ。ここ2日間で企業の業績が変わったわけではない。
米国経済は現在非常に好調であり、減税の恩恵も受けて決算発表もことごとく良いことに変わりはない。
トランプ大統領の株高狙いにも変わりはないだろう。政権的な視点で見ても、支持率を維持するため株価上昇をさせる意思がある、そのための政策を打とうとしていると考えて問題はないだろう。
パウエルFRB議長の姿勢にも変わりはないように思える。
パウエル氏はイエレン前FRB議長と比べてもハト派であり、金利を上げることには慎重だ。
変わったこと
最大の変化は金利が上昇トレンドに入ったことだ。
米長期金利はチャート上2.6%台に大きな節目がある。これが「金利は2.75%が上限」と言われていた理由でもあるだろう。
ここを突破したため、次は3%あたりまで節目はない。
次回の利上げは3月だと言われているが、今回の急落でその可能性が76%から66%へ下落したと言われている。
パウエルFTB議長が2月28日の議会証言でどんな発言をするのかは注目しておきたい。
株価急落の本質を考える
株価が急落したとき、投資家は次の3つの可能性を検証しなければならない。
- システミック・リスク
- システマティック・リスク
- 調整
システミック・リスクとはリーマンショックなどのように、金融機関の支払いが止まることだ。この場合、PERが割安だからと値ごろ感で株を買えない。
システミック・リスクとは、個別の金融機関の支払不能等や、特定の市場または決済システム等の機能不全が、他の金融機関、他の市場、または金融システム全体に波及するリスクのことをいいます。
システマティック・リスクとは、株、債券、金、原油などあらゆるものが通常の相関関係に関わらず軒並み下落することだ。こんな時は分散投資は役に立たない。
市場リスク、分散不能なリスクともいう。 株式のリスク(株価のブレ、ばらつき)は、株式を発行している企業に起因するものと、株式市場にまつわるものとに分解できるが、システマティック・リスクとは後者を指す。 リスクは、ポートフォリオを組むことで低減することが可能だ。
今回の急落では、株価と金利が共に下落している。金利の下落は債券価格の上昇を意味するので、この動きは正常である。
要するに、米国からマネーが流出しているわけではないので、米国の信用が棄損されたような事態ではないということだ。
これは米ドルインデックスを見ても納得がいく。
もちろんシステミック・リスクではない。システマティック・リスクでもない。となると調整と考えるのが妥当だろう。
そこで、次の仮説が立つ。
今回の急落は循環相場における中間反落ではないか?
循環相場とは上昇相場と下落相場を繰り返して構成される相場のこと。
これは金融相場、業績相場、逆金融相場、逆業績相場で構成される。
それぞれの期間で相場を主導するものが違う。
まず金融相場では不景気対策として金融緩和策が打たれる。この政策によって企業の業績が良くなることが期待され、株価が上がり始める。
次に業績相場を迎える。業績相場では金融政策が業績の結果として現れ、この業績を材料として株価が上昇する。今の相場はまさにここだ。
逆金融相場では景気が良くなりすぎてインフレになることを防ぐために金利を引き上げて、景気を抑制する。
逆業績相場では金利の引き上げの影響が業績に現れ始め、業績が低迷する。これによって株式相場は崩壊する。
崩落相場に気づくヒントはEPSの成長率だ。逆業績相場ではEPSの成長率が鈍化する。これによって業績は期待外れとなり、失望感から一気に売られるというわけだ。
中間反落とは
中間反落は要するに押し目だ。業績の成長によって実態とかけ離れた株価が調整される。調整幅は10%程度と言われている。
そもそも、株価が業績からかい離する理由は「業績が上がりそうだから今のうちに買っておこう」という投資家心理だ。
これで上昇した株価がさらに買いを呼ぶ。こうして相場に過熱感が生まれ、業績の実態とのかい離を理由に利益確定売りが入る。これが中間反落だ。
今回、米国株はEPSの急成長から株価が急上昇していた。そこで金利上昇の材料が出て業績と株価のかい離が反応してしまったと考えられる。
EPSとPERを根拠に冷静な判断を
では株価はどれほど下がるのだろうか。ここで頼りになるのがEPSとPERだ。
そもそも株価はEPSとPERのかけ算だ。EPSにPERの可能性をかければ値幅はある程度把握できる。
PERの考え方
PERの数字とそれが持つ意味は覚えておいて損はない。
- 17倍:過熱感があり、売りが警戒される。
- 15倍:標準
- 13倍:中間反落の底値メド。買いが入りやすい。
S&P500の場合
予想EPSは今後1年間のEPSを計算して出す。
2018年は1月が終了しているので、2018年は11か月分、2019年は1か月分のEPSを加重平均する。
すると今後1年間の予想EPSは約177ドルだ。
中間反落の底値メドのPERは13倍だから、これをかけるとS&P500の底値メドは約2300ドルだ。
これは現在値から約13%下落することを意味する。
日経225の場合
日経225の今後1年間の予想EPSは1556円だ。
これにPER13倍をかけると、日経225の底値メドは20,228円だ。
これは現在値から約10%から下落することを意味する。
まだまだ下落余地はありそうだ。
急落相場での資金管理
この状況で資金管理する目的はただ1つ。株価が底値まで下げても市場から退場することなく耐えられるかどうかだ。
これは株を塩漬けにするという意味ではない。その形が株式だろうが現金だろうがしっかり運用できる形になっているかどうか、退場するほど大損していないかどうかが大事だ。
①4日、5日の下落率を知る
まずは手持ちの銘柄がこの2日でトータルどれだけ下落したかを調べる。
②日経225の下落率と比べる
この2日間で日経平均株価は23,274.53円から21,645.37円と、6.96%下落した。
①で計算した下落率をこの6.96%で割ると、日経平均の何倍で自分のポートフォリオが価格変動するかがわかる。これをレシオと呼ぶ。
③日経225はPERが13倍まで調整したときに何%下落するか調べる
2月2日時点の日経225のEPSは1,541.36円だ。PERが13倍になると価格は20,037.68円になる。これは先の23,274.53から13.91%下落することになる。
④自分の資金がどれだけ減るか調べる
②で出したレシオに③の13.91%をかける。
日経225のPERが13倍になったときに、自分のポートフォリオが何%下落するかのメドが立つ。
そこまで投資金額が減ったとき、あなたは耐えられるだろうか?
もし資金的に耐えられないのであれば、今のポートフォリオを持ち続けることはあなたのキャパシティを超えている。
ピンチをチャンスに
今回の利上げ観測で、ゴルディロックス相場は終焉を迎えた。
ゴルディロックス相場は、程良い状況が続く、適温相場のことをいいます。また、ゴルディロックス(Goldilocks)とは、英国の童話にちなむ言葉で、熱すぎず冷たすぎない適温のスープにありついた少女の名前に由来し、マーケット(市場)では、世界経済が過熱せず冷めすぎてもいない状況を指します。
昨日までの低金利かつ安定的なマクロ経済界で育つのはグロース株だった。
これからは低金利で放置されていたバリュー株が日の目を見ることになると予想される。
それは銀行・不動産・自動車関連などのシクリカル銘柄だ。
シクリカル銘柄とは、景気の変動によって業績が上下しやすい(株価が上下しやすい)銘柄のことです。「景気敏感株」「素材銘柄」「市況関連銘柄」と呼ばれることも多いです。
銀行は金利上昇の恩恵を受けやすい。そう考えると低金利ゆえに放置されていたセクターがこれから伸びてくるとイメージできる。
金利上昇で一見企業の業績はピンチに見える。
トレンドが変わろうとしている今、次のお金が集まるところを見つけるのも投資の楽しみかもしれない。